3歳未満のお子さまの歯のことを本気で考えるお母さんへ

長女に歯が生えてきたとき、ちっちゃな2本の前歯をながめながら、
「この子の歯はどうしたら守ってあげられるだろう」
と考えたのが、子どもの予防歯科に取り組むきっかけでした。

歯科医師を養成する歯学部では、むし歯という病気に対して細菌学や生化学をはじめとする多くの基礎医学を勉強します。そして、あらゆる症例に対応できるようさまざまな治療法を学び、技術を習得します。私が学んだ時代、予防法については徹底したプラーク(歯垢)コントロールと砂糖制限が大きな柱でした。

私は患者さんに、大学で教えられたとおりに、定期検診と早期発見、早期治療の大切さを伝え、むし歯予防のために定期的な歯のクリーニングとフッ素塗布をすすめていました。これでむし歯は予防できるはずでした。

ところが、ホームケアを忠実に実行し、甘いものもがまんして、メンテナンスに通い、定期的にクリーニングやフッ素塗布を受けているにもかかわらず、むし歯になる人がいるのです。なぜだろうと悩み、予防の研修会などにも顔をだすようになりました。長女が生まれたのは、私が予防についての試行錯誤をはじめた、ちょうどそのころです。

勉強を重ねるうちに、日本にも先進的な予防歯科を実践している医院があり、予防先進国である北欧なみの結果を出していることがわかりました。

ほんとうだったらすごいけど、ほんとかな?

見学に訪れた私は、それが現実であることを知らされました。これは遠い外国の話ではないのだ、日本でだって予防歯科はできるのだと確信しました。

親になるとよその子でもかわいく思えるので不思議です。自分の子どもと一緒に、まずは開業している足立区の地元の子どもを、予防先進国である北欧のやり方でむし歯から絶対に守ってあげたいと思いました。

むし歯予防にぜひとも必要なのは、リスク管理です。

むし歯になる原因、リスクは人によってそれぞれ違います。だ液検査をして、その人がなぜむし歯になるのかを科学的に調べ、むし歯菌や生活習慣を改善しなければ、いくら歯垢をとってもむし歯はできます。定期検診とクリーニング、フッ素塗布という一般的な予防でむし歯が防げなかったのは、だ液検査によるリスク管理が不足していたからでした。

特に子どもに目を向けると、むし歯予防で重要なのは教育です。むし歯になるしくみや歯の大切さを絵本やリトミックで教えていると、歯を大切にしようという意識が自然とそなわってきます。子どもの方から「歯をきれいにして!」「今日はばい菌いないかな?」といわれることもしょっちゅうです。

あるとき子ども専用の2階の診察室から、お母さんと手をつないで下りてくる子が話をしていました。

「おやつを何回も食べると歯がとけっぱなしなんだよね。
お砂糖はむし歯菌を元気にしちゃうんだよね」

教わったばかりのむし歯予防の知識を披露している子どもの姿が、とても頼もしかったものです。

いま3人の娘は、むし歯ゼロに育てることができました。私がこの本を書いたのは、後に続く全国の子どもたちの歯も、守ってあげたいからです。